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「コミュ障」の話。

「コミュ障」というのは「コミュニケーション障害」の略だけれど、ふつうよく使われるのは昔風にいえば「人見知り」や「話し下手」というパターンがほとんどではないかと想像している。

結城は毎週有料メールマガジンを配信している。「結城メルマガ」という呼称をネットでは好んで用いているけれど、いちおう正式名称としては「結城浩の「コミュニケーションの心がけ」」となっている。長いですね。

このようなタイトルになっているのは、結城が有料メルマガを始めるときに想定していたテーマが「コミュニケーション」だったからですね。人と話す。人に伝える。人から受け取る。そのようなやりとりで悩んでいる人は多いので、そこに何らかの答えを与えることができれば、と思っていたのです。

でも現在の「結城メルマガ」はコミュニケーションに特化したメルマガではなく、結城が自分の最前線の考えをばんばん書いていくという形式になっています。ですから、文章の書き方、本の作り方、仕事の進め方、Q&A、などなど、オムニバス形式になっているわけです。

では「コミュニケーション」の話はもう何も書いていないかというと、そんなことはなくて、よくよく考えてみると、結城の関心の中心にはコミュニケーションがやはりあるわけで、何らかの形で(いささか間接的ではあるものの)コミュニケーションが話題になったメルマガになっているといっていいですね。

さて、それでコミュ障の話。TwitterでもWebでもFacebookでもいいけれど、あちこちで「コミュ障」という単語を見聞きする。それを見るたびに思うことがあるので、今日はその話をしたいと思っているのです。

まず「コミュ障」という呼称はかなり自虐的&防御的なニュアンスを持っているということ。自己弁護に使う場合もあるし、親しい友人をからかうようなニュアンスのときもあるけれど。

つまり、「はじめて接する相手とうまく話ができない」や「たった一人で気になる女の子を誘えない」や「自己紹介なんて何話していいかわからない」みたいな状況全般を「コミュ障」と呼んでいるように感じます。

でも、結城がいつも「コミュ障」という単語で感じているのは「それはほんとうにコミュニケーション障害なのかなあ」という疑問です。

コミュニケーションの基本というのは、自分以外の誰かとの「対話」ですよね。自分のことを何か話し、相手の話を聞く。そのやりとりがコミュニケーションの基本。そう考えたとき、初対面の人とうまく話せないというのは、そんなに変なことじゃないと思うんですよ。だって、相手のこと、何も知らない。

相手のことを何も知らないのに、いきなりフルパワーで話はじめられるひと(話はじめるひと)がいたら、すごいとは思いますが、ちょっと、なにか、ええと、センサーが壊れているような気もしないではないです。それは言い過ぎとしても、特殊訓練を経た人と思います。だって、知らない人相手ですよ。

それに、みなさんが自分のまわりを見ても分かるとおり、いきなり誰とでもペラペラと話せる人が多くの人の信用を勝ち得る……とは限らないのです。そんなことないですか。もちろん、誰とでもさっと話できることが悪いわけじゃない。でも、決してそれがすべてじゃない。

もしも「コミュ障」というのが「初対面の人とうまく話せない」や「大勢の前でしっかり自己主張できない」のようなことを意味しているなら、それは(程度問題はあるものの)、あまり大きな「障害」ではないような気がすると思うのです。

で、実は、ここから本題です。結城は、「コミュニケーションで最も大切なこと」というのは「相手のことを考えられるか」だと思っています。相手のことを考えられるかというのは抽象的かもしれませんが、たとえば「相手の現在の感情を想像できる」や「相手の希望が何なのかを想像できる」ということ。

ここには二つのポイントがあります。一つは「相手の視点に立てるか」ということ。もう一つは「想像力」です。順番にお話ししますね。

「相手の視点に立てるか」というのは、言い換えるなら「自分以外の視点に立てるか」ということです。自己紹介でも、対話でも、なんでもいいですが、他の人とコミュニケートする場面で、多くの人がアガります。緊張します。でもそのときにほとんどは「自分」しか見ていない。

自分はちゃんとしてるか。自分はちゃんと話せるか。自分はすごいことが言えるか……それはすべて「自分視点」ですよね。これは誰しもそうなんです。でも、ここでカチリ。「相手の視点」に立てるかどうか。これはとても大きな切り換えになります。

「自分は緊張している!」から「もしかしたら、相手も緊張してるかも」と視点を切り替えられるか。自分はどきどきしている。相手もどきどきしてるかもね。自分は何を言えばいいかわからない!相手も同じかもね。

コミュニケーションがうまい人は、ここで相手を「巻き込み」ます。何気ない感じで「いやあ、緊張しますよね」などと一言。これで相手と自分が同じ土俵に乗ります。相手の視点に立つことができるか。これはとても大事なことです。

そして、相手の視点にきちんと立つことができれば、多くの場合、相手は喜びます。つまり、相手の視点に立つということは、相手を思いやることに直結するからです。

そしてそこから自然と二つ目のポイントへつながっていきます。すなわち「想像力」です。相手はこんなことを考えてるんじゃないかな……と想像する。相手はこういう気持ちなんじゃないかな……と想像する。それが想像力です。

でも、このときに注意が必要です。相手のことを想像しているつもりが、自分のコンプレックスをぶつけるだけに終わっていることになりかねないからです。「相手は自分のことをつまらない人間だと思っているに違いない!」……これは想像力ではなく、自分のコンプレックスをぶつけているだけです。

つまり、「想像力」の背後には自分自身を忘れる力が必要になります。自分は自分のことをイケメンかどうか気にしている。でも、相手はそんなことは知ったことじゃない。自分はうまく話せない口べただと思っている。でも、相手はそんなこと、知ったことじゃない。

自分のことをいったんワキにおいて、自分の目の前にいる人のことを考える。自分の前にいる人々のことを考える。「この人は、いま何を思っているだろうか」それが想像力です。

「相手の視点に立つこと」と「想像力」。自分のことを忘れて、この二つを意識することができれば、もう「コミュ障」とはいえません。

今日お話ししたいもう一つのことがあります。それは「自分でコミュニケーションの達人と思っていると危険である」ということ。

きちんと相手の視点に立ち、想像力を駆使している人はいいのです。そうじゃない人の話。つまり、おもしろそうな話やウケ狙いのセリフをペラペラまくしたてるのがコミュニケーションの達人と思っている人は危険という話。

人が集まる場では確かにそういう人は人気がある。みんなのウケもいい。誰もそれに文句はいわない。だれもその人を嫌いはしない。でも、その人の「評判」や「評価」とはどういうものになるんだろうか。

「あの人は悪人ではないし、楽しいけれど、底が浅い」と思われる危険性がある。また「自分のことばかり話していて、こちらの話を聞いてくれない」という印象を与える危険性もある。きっとあなたのまわりにもそういう人がいると思います。

結城自身、あまり話はうまくないし、なんというか、座持ちがうまいタイプでもない。だから……というか、でも……というか、ネットでときおり見かける(自称)「コミュ障」の人のほうに肩入れをしたくなるのです。口下手で、初対面の人とうまく話せないタイプの人に。

なので、つい「相手の視点に立つ」ことと「想像力」のようなことを書いてしまいました。口下手でもいいのです。初対面の人と話せなくてもいいのです。自己紹介下手でもいいのです。でも、どうか、「自分」から「相手」に視点を切り替えるというポイントは押さえてほしい。

誠実で真面目だけど口下手な人、あなたに向けて書いています。「自分はどうか」という視点から「相手はどうかな」という視点に切り換えるだけで、コミュニケーションはスムーズに行きます。ほんとです。

そもそも、どんな人でも、自分の存在を尊重されていやな気分になる人はいません。逆に自分の存在がないがしろにされて不快にならない人もいないでしょう。傍若無人という言葉がありますが、あれは傍らに人がいないかのように振る舞う無礼さをいっているわけです。

「相手の視点に立つこと」は愛の精神でもあります。愛というのは、自分よりも相手を優先すること。自分の視点から相手の視点に立つというのは、まさに愛ではありませんか。自分のことをさておき、相手のことを考える。これが想像力です。まさに愛ですよね。

そろそろ結城の連ツイを終えますが、もちろんあなたがシャレとして「自分はコミュ障で」などというのはかまいません。でも、いざというときにはどうか「コミュ障」という言葉に自分の運命を委ねるのではなく「相手の視点に立つ」と「想像力」を駆使してほしいな、と思います。

人生は出会いで決まります。もしかしたら、その集まりの中にあなたの配偶者(候補)がいるかもしれません。そのチャンスをどうか無駄にしないようにしてほしいと思うのです。大切な人との出会いを大事に迎えるために「相手の視点に立つ」と「想像力」というポイントを覚えていてくださいね。

今日の「コミュ障を自称するあなたへ」という連ツイは、以下のURLにまとまる予定です。
http://rentwi.textfile.org/?671588638010937344s
そして、数日後に加筆修正を経て「結城メルマガ」での読み物として配信される予定です。
http://www.hyuki.com/mm/

2015-12-01 (Tue) 16:16:23